離婚事件

1――離婚事件について

 離婚は、決心に至るまでにも、離婚を決心して手続きを進める過程においても、たいへんなエネルギーを要するものです。
 ジェンダー的役割分担論のなかで、妻として母として、あるいは夫として父として、努力してきた長い年月があり、子どももいれば、それなりの夫婦共有財産もあるのが普通ですから、エネルギーの要るのは当然と言えます。
 配偶者の突然の別居宣言、婚姻費用支払いの打ち止め、親権の奪い合い等々、緊張の持続を強いられ、理不尽さへの納得のゆかなさを抱えながら、多くの方が悩んでいるのが現状です。

2――弁護士の役割とは

 そういう離婚事件において、弁護士の果たすべき役割について、私は、次のように考えています。
 ひとつは、離婚調停や裁判において、調停委員や裁判官に、依頼者の言い分や事件の根幹について、十分に理解してもらうための活動です。
 もうひとつは(ひとつめの裏返しでもあるのですが)、親権、慰謝料請求や財産分与がより多く認められるための、(裁判所が考えている)ポイントを依頼者に示し、法律要件や判例に沿って、依頼者から事実を引き出し整理していくという活動です。

 上記のことを、依頼してくださった方と二人三脚で行っていくこと、また法律的な主張と立証を重ねていくこと、これが離婚事件における弁護士の役割だと考えます。
 ですので、私は、最初に、「愚痴や悩みの相談を弁護士にするのは時間がもったいない」と説明しています。もちろん、DV事件などで必要な場合には、専門のカウンセラーを紹介しています。

 そうは言っても、泣いたり笑ったりしながら付いてきてくださった依頼者の方が、事件が解決して、あるいは事件の途中から、相談当初とは見違えるような明るい顔になって、再出発していかれる場面に立ち会えることは、弁護士としての喜びです。

3――相談にあたって用意するもの

 離婚事件の相談を希望される方は、できれば、次のものを用意してください。相談の時間を合理的に使うためです(しかし、用意できない場合でも、証拠がないからと自己判断であきらめたり、興信所に頼んだりする前に、とりあえず法律相談に来てみてください)。

1 簡単な時系列メモ
 いつから交際を始め、いつ挙式、婚姻届出をし、いつ子どもが生まれ、いつ別居したのか、いつ離婚話が浮上したのか、ご自分で調停を行っているのかなど。
2 暴力がある場合、診断書、写真、精神的暴力の言動のメモ
3 戸籍謄本
4 自宅不動産がある場合は、不動産全部事項証明書(法務局でとれます)

 どの項目が、どの程度認められるのか、そのために必要な材料は何か、まず、法律相談から、始めていきます。ご自分のなかで混沌としている状況であっても、少しは整理のお手伝いができると思います。 (弁護士 山下信子)


4――相談・解決事例

 離婚事件の解決事例豊富。女性側からも男性側からも相談・依頼がありますが、弁護士の年齢からか、熟年離婚の相談が増えています。

【離婚による財産分与(妻側)】

 @ 結婚30年近い夫婦。自宅、預貯金、生命保険、自動車など、それなりに財産はあるが、ほとんどが夫名義である。住宅ローンも残っている。妻は、財産分与はどのくらいもらえるものか? 夫の退職までにはまだ数年あるが、退職金も分与の対象にできるのか?

→財産分与においてはハーフアンドハーフ原則というものがあって、夫名義でも2分の1ずつの分配の対象です。
 
 A 夫が、離婚協議書案を作成して、私に◯千万円を財産分与として渡す約束をしてくれたので、これを信用して、お金をもらう前に離婚届けを役場に提出して離婚した。ところがその後、夫は、約束の期限にお金を支払ってくれず、約束を反故にする通知書を送付してきた。約束したお金を払ってもらうためには、どうすればよいか?

 B 離婚後も、子どもと共に自宅に住み続けたいがどうすればよいか?自宅は、夫3分の2,私3分の1の共有名義で、夫名義の住宅ローンがかなり残っている。

 C 離婚することになったが、夫婦の財産としては、オーバーローン(売却した場合の時価より債務の方が多い)の自宅マンションと僅かな額の預金しかない。夫は、自宅の売却代金と住宅ローンの差額の半分を私に支払えと言っている。私は負担しなければならないのか?

D 結婚後購入した自宅は夫と私の共有名義になっているが、私の両親が購入資金の4分の1を出してくれた。夫と離婚するにあたり、両親が援助してくれた資金を回収したいが、どうすればよいか。自宅はかなり時価が下がっているようだし、夫は、自分が私の両親からもらったから返済する必要なしなどと主張している。両親は夫から借用書を書いてもらっていない。

 E 結婚前の給与や親からもらったお金を貯めていた私の預金口座から出勤して、自宅の購入資金や家計費に入れてきたが、離婚に際して、結婚前からの預金分について、回収できないか?

 F 離婚とこどもの親権者については合意できたが、自宅の名義の書き換え、住宅ローンの処理、養育費など、話し合いが行き詰まってしまった。できれば裁判をせずに協議離婚したいが、どのようにすればよいか。公正証書を作成して離婚する方法がよいと聞いたが作成の方法は?
 
【離婚による財産分与(夫側)】

 @ 妻から離婚調停の申立てがなされ、同居したまま、調停をしている。妻の主張を聞いても、離婚する原因はまったくない。どのように対処すればよいか。

 A 妻が突然別居し、離婚調停を申し立て、財産分与を請求されている。妻が提出した財産目録では、妻名義のものが殆どないことになっているが、妻名義の預金もあるはずだ。長年妻を信頼して給料を全部妻に渡し妻が家計を管理してきたので、夫婦の預金がいくらあるのか、どこに預金しているのか、自分にはわからないのでどのように対処すればよいか困っている。
 
【離婚と慰謝料】

 @ 夫は、生活費を少ししか渡してくれず、私がもう少し増やしてほしいというと、子どもの前で私の人格を非難するなど言葉の暴力がひどい。そうしながら、夫は絶対に離婚しないと言っている。言葉の暴力だけでは離婚原因にならないと聞いたが、離婚するには、どうしたらよいか。

 A 夫から突然離婚の申入があった。拒否すると私を露骨に見下す発言をしたり、他に好きな女性がいることを露骨に匂わせたりし、私が根負けして離婚届けに判子を押すのを待っている。どのように対処すればよいか。

 B 夫の不貞行為が発覚したが、離婚するかどうかまだ迷っている。相手の女性に慰謝料を請求したいが、離婚する場合と離婚しない場合で、慰謝料の相場に違いがあるのか?

 C 夫の不貞行為が発覚してから夫婦関係が破綻して4年後に離婚した。相手方の女性に慰謝料を請求したいが、不貞行為の慰謝料の事項は発覚してから3年だと聞いた。もう請求はできないのか?
 
【離婚と親権、養育費】

 @ 離婚の申し入れをすると、夫は、こどもの親権をとことん争ってくる可能性がある。どのように対処すればよいか。

 A 子どもを連れて別居したが、夫が、保育園に子どもを迎えに行き、そのまま子どもを渡してくれない。夫の母が子どもの面倒を見ていて、このままでは、子どもを手元に戻すことができず、親権者も夫になってしまうのではと心配でたまらない。どうすればよいか。

 B 自分は妻よりも子どもの世話をしてきたし、今後もしていく意思もその能力もある。父親である自分が親権を得られるようにしてほしい。

 C 養育費を調停で決めて離婚。夫は、その後まもなく、給与が下がったとして、養育費の減額請求の調停を申し立てた。どのように対処すればよいか。

 D 養育費を決めて調停離婚。その後夫は再婚し、養育費を支払わなくなったので、給料の差し押さえをしたところ、差し押さえ禁止範囲の拡張の申立や、請求異議の申立をしてきた。どのように対処すればよいか。
 
【渉外離婚】

 @ 日本人の夫と離婚することになった。夫との間には子どもがふたりいる。私は今まで「日本人の配偶者等」の在留資格で日本で暮らしてきたが、夫と離婚すると、私の在留資格はどうなるのか? 離婚しても日本で働き、子どもを育ててゆきたい。
  
 A 中華人民共和国の国籍の妻。日本人の夫と離婚することになり、子どもの親権がほしいが、中華人民共和国の民法では、離婚しても、夫の親権はなくならない。この場合どのようになるのか?どう対処すればよいか?

 B 夫は欧米人。夫の本国では離婚しても共同親権なので、離婚の話し合いの中で、私に親権を譲ろうとしてくれない。仮に親権を私に渡すとしても、子どもとの面接について、到底実現できそうもない要求をしてくるので困っている。どのように対処すればよいか。