交通事故
1――相談は、「早いほどよい」
交通事故の法律相談に来られる方は、相手方あるいは保険会社と揉めてからの方が多いようです。
しかし、交通事故の相談は、「早いほどよい」というのが経験上の感想です。
まず、現場検証に立ち会う前、警察から事情聴取される前。この段階でどういうことに注意すればよいのか、弁護士からアドバイスを受けてください。事故の態様を正確に調書化してもらうこと――これが「過失割合」に影響し、示談の際に問題になってくることがあります。
次に、症状固定し、後遺障害診断書をもらうとき。
診断書は、もちろん医師が医学的知見にもとづいて作成するものです。が、後遺障害の等級は定められた基準に従って決まるので(例えば、醜状痕のうち線状痕は、3cm以上か5cm以上かで等級が異なる)、正確に計ってもらうことで随分違ってくる場合があります。
さらに、保険会社から、示談額を提示されたとき。
保険会社から「これが一般的な基準です」と言われたとしても、すぐに承諾せず、弁護士にご相談ください。交通事故については多くの事例の集積があるので、等級に応じ慰謝料などをある程度鑑別することができます。
あくまで事案ごとの症状、事故状況、証拠の有無によって変わってきますので、「必ずこれだけ請求できます」といった回答はどの弁護士もしていないと思いますが、示談を結んでよいかの、判断の参考になると思います。
2――交通事故の弁護士費用について
保険会社の担当者に、「弁護士に頼むと、示談額より多い費用をとられるから、弁護士に相談するのはやめておかれたほうがいいですよ」などと言われたことはありませんか?
しかし、賠償額より多い金額を請求する弁護士はいないと思います。問題は、着手金の金額です。
さつき事務所の場合、保険会社が提示した金額よりいくら増やすかを基準として計算し、それより低い金額を着手金としています。
たとえば、保険会社は、1000万円の示談額を示してきたが、2000万円を請求してよいと考えられる場合、着手金の計算は、まず(2000万円−1000万円)×5%+9万円=59万円(+消費税)となりますが、この金額は判例のなかの高いところをとっての請求額なので、着手金はそれより低い額にします。
ですので、さつき事務所では、まず、保険会社の示談案をもらってきていただいています。
また、すでに症状固定が済んでいる方は、まず最初に、自賠責保険の被害者請求をし、その保険金が得られた後に、そこから着手金をいただくようにしています。
成功報酬は、増額させた金額が3000万円までの場合、10%+18万円(ほかに消費税)ですが、はじめの時点で着手金を低くしている場合は、協議して調整していただくことがあります。
症状固定が済む前や示談額が提示される前から依頼を受ける場合は、済んでいる場合ほど具体的な計算ができないので、違ってきますが、基本的な考え方は同じです。
できるかぎり丁寧に弁護士費用の説明をするよう心がけていますが、相談する際、遠慮なく、聞いてみてください。
3――高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、交通事故などによって脳に外傷を負った後に起こる後遺症です。
事故直後の生命の危険を脱して、ようやく家族がほっとした後に、高次脳機能障害の問題は表面化してきます。
意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力)、問題解決能力(理解力、判断力)、作業を持続する力、協調性などに障害が出てきます。
本人にとって辛いのはもちろんですが、本人に病識がなかったり、外見上は健常人であるように見えるため、他人の理解を得られない場合が多く、家族もたいへん苦労します。愛する人の人格が変わる辛さもあります。
私は、医療訴訟に携わってきた経験を生かして、高次脳機能障害を負った交通事故被害者の事件に取り組んできました。
そこで今、次のようなことを考えています。
4――詳しい検査と詳しい所見を
交通事故損害賠償請求の示談交渉や裁判においては、脳のどの部位がどの程度破壊されたかの客観的所見が重要です。自賠責保険の等級は、日常生活動作だけではなく、画像所見も含めた総合的判断で決まり、損害賠償額に連動していくからです。
しかし、高次脳機能障害はCTやMRIでは確認できないことがあります。医師が診断書に、単に脳挫傷としか記載しないことも見られます。これでは単に脳の表面が傷ついたと受け取られかねません。
近年、ヘリカルCT、SPECT、PETなど、新しい検査方法で高次脳機能障害の解明ができるようになってきました。詳しい検査をしてもらい、詳しい所見を診断書に記載してもらうことが大切です。
5――日常生活の記録も大切
もちろん、介護する家族が、日常生活における本人の変化を記録しておくことも大切です。私は、自賠責認定基準を見据えて、記録の要点をアドバイスしています。
6――できるかぎり証拠の保全を
交通事故損害賠償請求の示談交渉や裁判においては、事故態様や過失割合が重要です。全体としての損害額が大きくても、過失相殺によって大きく減額されてしまうからです。
高次脳機能障害の場合、意識不明の状態が続いている間に、加害者の実況見分調書が作成されます。意識障害から回復しても、本人が事故の記憶をなくしている場合が多いので、死亡事故の場合と同様、「被害者に口なし」です。事故態様が加害者側の一方的主張によって決まってしまうおそれがあります。
目撃者の確保、乗っていた自動車の損傷の写真撮影など、周囲の方はできるかぎり証拠を保全しておいてください。後で必ず役に立ちます。家族の生死の心配をしているときに酷な要請ではありますが、動ける親族が援助してあげてください。
このような方法により、実況見分調書の「嘘」を明らかにし、過失割合をひっくり返した経験は、どの弁護士にもあることです。「現場検証、実況見分は、警察がするのだから信用できる」と考えるのはよくありません。
7――自賠責等級が出てからも
自賠責等級が出ても、その等級の損害賠償しかとれないというわけではありません。後遺障害の実態、介護の苦労の実際を、医学文献や視覚的な工夫で裁判官に見てもらうことや裁判例の調査など、努力すべき分野は多々あります。 (弁護士 山下信子)
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(更新:2017/06/14)